屋上のフェンスに寄りかかり、膝の上に祖母が作った弁当をひろげると、月哉は手を合わせた。 箸を取っておかずの一つを口に含み、北校舎を見下ろす。 左から三番目に月哉の教室があって、その教室の窓際の席に瞳たちの姿が見えた。 遠いのであまりハッキリしないが、それでも瞳は、月哉の目にはひときわ目立って見える。 遠くにあっても他の女生徒たちとは『違う』瞳は、誰の目にあっても目立つ、華やかな存在であるに違いなかった。 それにしても、南校舎の屋上からは二年生の教室が良く見えるということを、一体どれだけの生徒が知っているだろうか。 人もまばらな屋上を見渡して、月哉は口の中のものを呑みこんだ。 |
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彼と彼女の関係 4 | ||
「渡会君、机借りていい?」 昼休み。 瞳が普段属している、女の子仲良しグループのうち一人に、月哉は声をかけられた。 どうやら皆で机をあわせて食べるつもりらしい。 「ああ。いいよ」 「ホント? ありがとう」 月哉が頷くと、瞳を含む仲良しグループが席を移動させ、合わせはじめた。 瞳は勿論、自分の席に座っている。 「ねぇ、狭川は?」 「狭川? 知らない、どっか別のところで食べてるんじゃないの?」 「じゃあ仕方ないね、勝手に借りよっか」 狭川というのは、瞳の隣の席で、月哉の前の席の男子のことだ。 確かに、いない。 「それじゃ、いただきまーすv」 幸せそうな合掌とともに、楽しそうな笑い声。 机をとられ、居場所をなくした月哉は、とりあえず弁当箱を持って教室を出た。 「………ちょっと、悪いことしちゃったかな」 「え、何が?」 月哉が教室を出た後。 教室を出る月哉の姿が目に入った志保は、卵焼きをぱくつきながらそう呟いた。 「だから、渡会。…席、とっちゃったじゃない」 「ああ。でも渡会君、いいって言ったじゃない」 「そうだけど。…渡会ってもしかして、お弁当一緒に食べる人、いないのかな?」 「ええ?」 思わず、瞳と加奈子は顔を見合わせる。加奈子も驚いているようだった。 「でも前まで、田口とか浅生とかとよく一緒にいたじゃない?」 「そういえば、最近一緒にいるところ見てないかも」 「かわりに、勅使河原とかと最近仲いいんじゃない? あとカナの彼氏とか」 「…うん、まぁ、和くんと渡会、結構仲良いけど」 「二人とも明るい系よね」 「……明るい系って……」 それじゃあ、今までの月哉は暗い系だったのだろうか。 ……暗かったかもしれない。 いやそれは、彼にかけられていた魔法の効果であって、月哉自身が暗かった訳では、一応ないのだが。 瞳は口に含んでいたおにぎりを呑みこんで、3人を見渡した。 「じゃあ、誘ってあげた方が良かったかな」 「……いや…それはさすがに……」 「………ねぇ?」 「なんか……妙な光景よね、それって」 少女4人と、プラス超絶美形な少年が1人、机をあわせてお弁当を広げる図。 「……そうかも」 瞳は明後日を向いて、頷いた。 「……それでね、そこのお店の和風チョコケーキパフェっていうのが、結構美味しくて」 「なにそれ、和風チョコケーキ? どんなパフェよ」 お弁当の中身が残り少なくなってきた頃、四人の話題は既に別の話題に移っていた。 今は睦美が最近見つけたという、カフェの話だ。 「それって、本当に美味しいの?」 食べ終わった弁当箱を片付けながら、瞳が問う。 「そう、私も思ったのよ、これって美味しいのかなぁって! でも実際に食べてみたら、実は美味しくって!」 「えぇー、そうなの? わたしも行ってみようかなぁ。どこだっけ、そこ」 「駅の中。南口のあたり」 「じゃあ、今度みんなで行かない?」 「いいね、じゃあ今日は?」 次々に賛同の声があがったが、瞳は首を振った。 「ごめん、今日委員会の集まりがあるから」 「そっかぁ、それじゃ仕方ないね。皆いつなら空いてる?」 「あたしは大体いつも開いてるけど、金曜は塾だから」 「私は明日はちょっと…」 「じゃあ、土曜日は? 久しぶりに皆で遊びに行こうよ。そんでついでにそこに行くの」 その言葉に誰も異をとなえなかった。 |