「瞳――――」



 呟く。

 愛しいひとの名。



 ……返事は、返ってこない。









呼ぶ声、返る声










 部屋は暗闇に支配されていた。
 隠れ家の外に出ても同じだろう。今は夜なのだから。

 数時間前までは明りが灯され、部屋に男たちの声が絶えることはなかったのだが、今は静まりかえっていて、聞こえるのは彼らの寝息だけだ。


 …今、こうして目を開いているのは月哉だけだ。



 確かに眠りについたはずなのに、目が覚めてしまった。
 きちんと寝て、明日からに備えなければならないというのに。

 …眠れそうにも、ない。


 はぁ。

 溜め息が零れる。


 寝ても覚めても――まだ一回しか寝て覚めていないが――脳裏に浮かぶのは彼女の姿。

 何故。
 何故?

 何故、気づかなかった?
 彼女は今どうしてる?

 判らない。
 判る術はない。


 ……もどかしい。



 ギリ、と歯を噛み締める。手に力が入る。
 今回ほど、白藍が憎いと思ったことはなかった。

 よりによって、彼女を。瞳を。

――――判っていたことなのに!


 油断していたのだ。
 …知っていたのに。判っていたのに。

 みすみす、罠にかかった。



 どこに視線を移しても暗闇ばかりで。
 暗さになれた眼に映る人影は、どれも彼女のかたちをしていない。

 …傍に居て欲しかった。

 何よりも。誰よりも。



「………っ、―――瞳……」


 名を呼ぶ。

 彼女の名。


 呼んでも、返ってくる声はない。
 彼女は此処にいない。

 いない―――……



「……月哉様」

 そっと、呼びかけてくる声があった。
 飛葉だ。

「……眠れないのですか?」
「…ああ」

 …情けないことにね。

 そっと、声には出さずに呟く。

「睡眠効果のある紅茶をおだししましょうか?」
「……頼む」
「…わかりました」

 すっと、飛葉の気配がかまどの方に消える。

 …そのお茶を飲んでも、僕は眠れるのだろうか。

 一回はちゃんと眠れたのに、ついそう考えてしまう。
 このままだと、夢にまででてきそうだ。

 ……やるせない。



「瞳」


 呟く。


 呟く声を誰にも聞かれたくなくて。
 声は出さず、口だけ動かす。


「瞳――…」


 今どうしてる?
 何をしている?

 何を考えてる―――?


 知る術はない。




 呼ぶ声に、返る声は、ない。























とがきという名の駄文

 600HITをとられた緋華さんへプレゼンツv
 また更に多大に遅くなってすみませんでしたっ(><;;
 そんなわけで、瞳を心配する月哉in月〜。
 時間としては『シャドウ・レイディズ』の隠れ家ににての後、のつもりです。
 月哉眠れてません。いや一回眠ったけど、それも1時間くらい?
 暗いですね;

 
2002.12.23