まだ、心臓がバクバクいっている。

 心なしか、からだが熱い。



 でも、不快感はない。


 むしろ、今のわたしは、

 これでもかっていうくらいに、幸せで。



 誰も周りにいないけれど、それでも、頬が緩んでしまうのを止めるのに必死だった。




「ただいまー!」










その後。














「おかえりなさい、瞳ちゃん。…あら、どうしたの?」
「え、なにが?」


 ただいまを言って家に入ると、母の久江が出迎えてくれた。


「顔、赤いわよ。――やっぱり熱でもあるの?」
「だから、わたし別に熱なんてないわよ、お母さん」


 笑って答える。
 そう、熱なんてない。ないけど、熱い。


「そう? そうよねぇ……熱なんてあったら、そんな嬉しそうなにやけた顔、してないわよねぇ。
 なにか、いいことあったんでしょ」


 ふふふふふ、と笑って指摘してくる。
 思わずギクリとするけれど、必死に冷静を保つ。

 ――別に、言ってもいいのだけど。まだ、少し照れくさいから。
 それに、このことを最初に報告するのは、加奈子だって決めている。


「うーん、あったんだけど…まだ秘密。それよりお母さん、台所大丈夫?」
「あら、いけない。じゃ、あとでちゃんと教えてね?」
「はいはい」


 苦笑していうと、久江は急いで台所へ戻っていった。
 いつもならそんなにしつこくないのに、今日は特別のようだ。


「…やっぱり、わかっちゃうのかしらねぇ」


 ぽつりと呟いて、瞳は自分の部屋のドアを開けた。











『あっ、瞳!? ね、どうだった!? 答えなんてわかりきってるけどどうだった!?』


 その日の夜、逸る気持ちを抑えきれず瞳に電話をかけてきた加奈子は、相手が瞳に代わったとたん、瞳が言葉を挟む隙もなくまくし立てた。
 予想外だった加奈子の剣幕に、瞳は思わず次の言葉を失った。
 この場合――なんと言えばいいのだろう?


「あ―――うん」
『瞳!? あぁもうわたしすっごい気になってるんだからね!』
「うん。えーと、あのね……」


 しどろもどろになって、瞳は話し始めた。






『――ええぇ、じゃあなに。渡会に先越されたの?』
「…うん」
『へえ、渡会も同じこと考えてたんだ』


 加奈子の言葉に、瞳は顔を赤くして答えた。
 姿は見えなくても、瞳が顔を真っ赤にさせているのが、加奈子にははっきりとわかった。
 伊達に親友はやっていないのだ。


「……なんか、くやしかった」
『ええ? 悔しいって、なんで?』

「だって、わたし、すごく緊張して。頑張って言おうと思ってたのに、先に言っちゃうんだもの。
 うれしかったけど、でも、なんか…悔しい」


 いっぱい、考えて、悩んで。
 そんなになる前に、言って欲しかった。
 もちろん、月哉もたくさん悩んだろうとは思う。
 そして、そのことについては、許してあげようと思っている。

 …けど、でもやっぱり。
 悔しいと、そう思ったという真実はかえられない。


『そっかあ。確かに、それは悔しいかも。――でもさ、瞳』
「なあに?」


『おめでとう、瞳。――よかったね』

「うん。―――ありがとう」


 親友の心からの言葉に、瞳は微笑んだ。















『……でさでさ、瞳! 今度こそ絶対、わたしと和君、瞳と渡会で、絶対に、Wデートしようね!』

「…はいはい」



 まだ諦めてないらしい加奈子の言葉に、瞳は再び、笑った。












とがきという名の駄文

 ネタバレ万歳(爆)
 十六夜異聞2を読んだ人にだけお勧め。『望月』のその後です。
 いやぁもう、ほんとによかったよかった
 イヤルドの言葉じゃないけど、この二人は初々しいを通り越して悠長すぎて、あーこいつらどうなるんだと思っておりましたが(笑)
 丸く収まりましたね。よかったよかった。
 できれば外伝で、その後のラブラブを読みたかったです。

 っていうか、なんか男性陣バージョンも書けそうだぞ(笑)

 
2002.7.27