夜が来る。


 太陽の光は遠ざかり、闇が訪れる。


 そして――月が現れる。


 丸い、丸い―――満月が。














crimson moon
















 委員会が終わった時には、外はもう暗くなっていた。
 ノートとペンケースを抱えて、瞳は外の様子を気にしつつ、小走りに廊下を歩いていた。


 いけない―――

 もう、こんなに暗くなっている。
 委員会があったのだから、仕方がないといえばそうなのだが、それにしても終わるのが遅すぎた。
 校庭を見ると、外の部活動も後片付けに入っている。
 委員会の最中も瞳は、外を、時計を気にしていた。
 ――冬の日没は早い。すぐに暗くなる。



 早く、帰りたかった。
 危険な、夜の世界から。
 安全な、家に。
 一刻も早く。

 夜の外は危険なのだ。何があるか、わからない。
 何を惹きつけてしまうのか、わからない。



 階段を下りて、右に曲がり渡り廊下を走る。本当は廊下を走ってはいけないのだが、この際そんなことはどうでもいい。
 そしてまた右に曲がれば、瞳達の教室のある廊下になる。
 一刻も早く教室に戻り荷物をとって、家に帰らなければならない。

 渡り廊下を渡りきり、すぐそこの窓から外を見ると、外は先程よりもいっそう暗くなっていた。
 この辺りは、屋上以外の校舎内で一番よく空が見えるところに在った。
 そして、日没も。



「早く、帰らなくちゃ―――」



 月が昇る前に。
 真ん丸い、満月が昇る前に。
 月が、赤く、染まる前に――――






 ガラッ


 勢いよく戸を開け、教室に入る。
 当然教室には、誰の姿もない。

 瞳は長い髪をなびかせ、自席の元へ行く。
 横にかけた鞄を机の上にあげ、机の中身を鞄に入れる。
 委員会に持っていったノートと、勿論ペンケースも入れて、閉める。
 その後ロッカーに行って、コートとマフラーをとった。

 後は着て、家路につくだけだ。
 そうこうしている間にも、闇はだんだんと濃くなっていく。






 ガララ―――

 パチン。



 ―ふと。
 戸が開き、電気がつけられる。

 突然の事に、振り向いて――驚いた。
 もう、ここにはいないはずの――特に、満月の夜である今夜は――姿を見つけて。



「駄目だよ、ちゃんと―――電気はつけなきゃ」


 瞳は、教室の入り口近くの電気のスイッチに手を伸ばした、渡会月哉の姿を見つけた。

 その姿は、いつもの、昼間の平凡な目立たない男子生徒の姿だった。
 しかし、その電気を消せば、その容貌はこの世のモノとは思えない、美しく艶やかな容貌に変わる。
 月の――影の王国の、王子の姿に。


「月哉? なんでまだ学校に」
「……………僕も、委員会だったからね」


 入り口から離れて、窓側の自席へ歩む。
 そういえば、彼はいつも窓側の席をキープしていた。

 瞳同様、机の横にかけていた鞄を取ると、窓の外を見て、顔を顰めた。


「……もう、暗いね。――送って行くよ、瞳」


 その誘いを断る理由を、瞳は持っていなかった。










「ねぇ、月哉」
「…何?」


 帰る道すがら。
 隣を歩く月哉に、瞳はきらきらと光る挑戦的な、悪戯っ子のような眼を向けて、言った。


「本当は今日、委員会なんてなかったんでしょ」














 月哉は、瞳の住むマンションの前に、ひとり立っていた。
 瞳はもう、この中に入っていった。今頃は、家に戻っているだろう。

 さあぁっと、夜風が月哉の髪をゆらした。
 闇の中、彼の容貌は瞳と――そして彼の母親にだけ見える、月の王子の、秀麗な容貌に変わっていた。

 月哉は、じき月の昇る方角を見て――そしてまた、マンションに眼を移した。


「なんで―――わかっちゃうかな、瞳は」


 呆れと、喜びとが、入り混じった独り言だった。














 その夜、空に浮かんだ満月は、赤く赤く――――染まっていた。

















とがきという名の駄文

 いやんもう、月哉ってば照れ屋さん(爆)
 …とりあえず、初書き影の王国。
 特にどーってことない話ですが、まぁ最初はこんなもんでしょうか。
 時間的に、エスケープ・ゴートとファントム・ペインの間ですか。っていうかそうなんです。
 もう、月の昇る時間とかはいい加減です(爆) 誰か教えてください;;;
 もし間違ってても気にしないでください(爆)
 とりあえず月哉くんは、瞳ちゃんが委員会で遅れそうだったので、送って行こうと思ってわざわ待ってたんです!(爆)
 夜は危険ですからね。とくに満月の夜は。

 
2002.3.20